21世紀の東京女学館をめざして
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建学の精神(現代語訳) 21世紀の東京女学館をめざしてTOPへ

建学の精神 女子教育奨励会設立趣意書(原文)

吾邦教育の事,之を既往に顧みれば,維新以来實に振起改良せりといふべし,されど全体に就きて之を論ずれば,缺点と稱すべきもの将たなきにあらず,女子教育の振るはざるが如きも亦其一なり,夫れ社會は男女の二性よりして成立つものなれば,男女互に和合協力して能く相助くるにあらざれば,真の國歌の隆盛は期し得べからず,蓋し女子に要する所は,三箇の地位に立つに臨みて各々能く其己を處すべきの點にあり,三箇の地位とは何ぞ,其一,人の妻と為る事,其二,家婦となる事,其三,母親となる事,是なり而して家婦となり,母親となりて,其己を處するが如きは,最も善良なる教育を受たる者にあらざれば,容易に之を能くし得べからず,抑家婦たる者は一家整理の事,家内衛生の事,家事経済の事等に於て皆能く之に通曉せずばあるべからず,されば女子たる者に教育の缺くべからざるはまた疑と容れざるべし,

殊に女子に教育の必要なると感ずるものは,其子を擧げて母親となるの時にあり,そも児童の教育は,學齢に達し學校に入りて修學する頃に至りて初めて始まるものにはあらず,在胎中に在る時の如きは姑く論ぜず,胎内より出で,初めて大氣に觸れ,日光を見る時に於て,早く既に始まるものなり,而して襁褓の中に在る時より學齢に達する迄の間,受くる所の教育は,全く母親の掌中にあるものにて,生長の後善良なる人物となると否とは,大概此間の教育の良否に由りて分かるるものとぞいふべき,艸木の最も撓まし易きは,其萌糵の時に在り,人の最も移し易きは其幼稚の時に在り,

學校教育の緊要なるは固より論を竢たずといへども,其幼稚の時母親の膝下にありて,善良なる教育を受けたるにあらざる児童をして,一朝怱ち學校の教育を受けしむるは,猶沙磧の上に大厦高棲を建築するが如しとやいはん,故に學校教育をして,果して其功を奏せしめんとには,母親をして善良なる教育を授けしむるの人となさざるへからず,かかれば女子に教育の缺くべからさるは今更言を竢たざるべし,

されど女子教育の事をもて今日の急務とするの旨趣は,全く上に述べたる理由にのみ因れりといふにはあらず,諺に曰く釣合はぬは不縁の原と凡そ男女の配偶は智識品格互に相適合するものをこそ選むべけれ,若し然らざらんには,情機投合せざるよりして其間自然に阻隔の意を生じ,知らず知らず愛意の薄きに至るものなり,夫婦の関係この如きの有様なる時は,人生の重要なる家居日常の快楽を各々十分に受け得ざるのみならず,児童の教育を始として,終には社会の秩序國家の進歩にまでも諱じき妨碍を生ずべきなり,

今吾邦男女関係の有様を観るに,明治の今日に在りては,速かに排除すべき,彼の男女疎遠,夫婦阻隔の陋習の如きは,却て大に増長せんとする勢あるぞ歎はしき,何故なれば,男子の教育は日に進歩を加へ月に改良に赴くも,女子の教育は依然として舊容を改めず,宛も封建時代暗黒世界に棲息するが如き情態を存する者あるをもて,男子の智識思想の増進に従ひて,女子の有様と隔絶する事ますます遠く,隨て所謂釣合を失ふものいよいよ甚くして,男女の交際勢ひ疎遠に赴き,夫婦の愛情自から菲薄に歸するの外なきに至るべければなり,社會男女の有様此の如くにして,いかでか國家の隆盛をば望むべき,

されば今日に於ては速に女子の教育を振興して,男子の教育と駢び馳せ,男子智識思想の増進に相伴ひて常に其釣合を失はざらん事を期すべきなり,

女子教育の今日に急務なるは,上に陳述するが如し,故に我輩今女子教育奨励会を設立し,廣く内外同感の士女を募り,大に女子の教育を振興し,将来吾邦の男女をして人生当然享有すべきの福利を完受せしめ,兼て社會の秩序國家の進歩に裨益あらんことを期す,

有志の諸君よ,冀はくは此學を賛成し,速に本會に同盟して相共に協同輔翼し玉はんことを,
明治十九年十一月
              発 起 人

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